正式名称、信貴山歓喜院朝護孫子寺(しぎさん かんぎいん ちょうごそんしじ)は1951年に高野山真言宗から独立して以来、信貴山真言宗の総本山のお寺です。
信貴山は生駒山地の南端、生駒郡平群町にある標高433メートルのさほど高くないお山。
寺伝によれば、6世紀、用明天皇のころ、廃仏派の物部守屋討伐に向かう聖徳太子が、寅の歳、寅の日、寅の刻に、山上で毘沙門天を感得し、勝利を得たことから、この地に毘沙門天さまをお祀りしたことが縁起とされます。
この時、同毘沙門天さんの偉大なお力による勝利を讃えるために同時に建立されたお寺が大阪にある四天王寺です。
信貴山には、聖徳太子自らが刻んだという毘沙門天さまをお祀りしたといいます。
と、同時に、聖徳太子は、毘沙門天さまが出現されて戦いに勝ったことにより、「この山はまことに信じて貴い山」と仰せになられ、
いつしか、「信貴山」と呼ばれるようになったといいます。
「朝護孫子寺」の名前の由来は、ずっと時代が下って902年、中興の祖と呼ばれる命蓮上人が醍醐天皇の病を祈願によって
平癒したことから、醍醐天皇より「朝廷を子々孫々まで守護する」という勅号をいただいたことより名づけられました。
朝廷の庇護をうけ、多くの領地を得た朝護孫子寺でしたが、度重なる兵火や火災、明治の廃仏毀釈で領地は縮小、荒廃してしまった時代もあったといいます。
しかし、聖徳太子の時代より御祈願所として守り継がれ、檀家を持たない完全なる御祈願寺として、毘沙門天さまへの信仰を貫いているのです。
境内には、ご利益を求めた人たちからの無数の奉納灯籠が、多くの人の信仰を集めていることを如実に物語っています。
今では、毘沙門天さま以外に、毘沙門天さまの奥様の吉祥天さま、毘沙門天さまと吉祥天さまとのお子さま、善膩師童子さま、合わせて三体が朝護孫子寺に祀られています。
奉納灯籠
信貴山 鳥居 多聞天
毘沙門天のぼり
信貴山の参道口にある鳥居には、毘沙門天さまの別名、「多聞天」さまのお名前が掲げられてあったり、毘沙門天さまののぼりが立てられていたり、信貴山の山全体がまさに、毘沙門天さまへの信仰一色の御山なのです。
信貴山の中では、屋内にいても、屋外の奥まったところにいても、どこにいても、聞こえてくる音楽があります。
心地よく、いつまでも聞いていたくなります。
30分、1時間置き、一定の感覚で、何度も、何度も。
「エーイ」という掛け声の後、「ドーン、ドーン」という木を叩いたような音。
そして、お経。とてもよく響く。
まるで、楽器の内部にいるように、お経が最大限響くよう、設計されている御山。
そのお経は「大般若経」、正式名称、「大般若波羅蜜多経」です。
大般若波羅蜜多経は唐代の玄奘三蔵がインドから般若経典群を中国へ持ち帰り、玄奘自ら翻訳し完成させたお経と言われており、信貴山朝護孫子寺の本堂では、毎日何度も大般若祈願が行われており、その読経がまるで音楽のように山全体に響き渡るのです。
「大般若経典」は、六百巻もある長大な経典ですが、それを20分ほどに縮めて、転読して祈願されています。
一巻読むのに、一時間はかかるといいますから、六百巻読むとなると気が遠くなるような量ですね。
転読する際に、「経典を読みましたよ」という合図なのか、経典をボン、ボン、と机に叩いて祈願されるのです。
朗々たる大般若経典の転読は、信貴山全土に響き渡り、どこにいても、何をしていても聞こえてくるのです。
信貴山の塔頭の一つである玉蔵院さんにお世話になった際、宿坊の番頭さんが、「うちの住職のお声、すごく良くひびくでしょ?」と誇らしげに語っていましたが、少し離れたところにある玉蔵院さんにいても、毎日お経を聞けるのは、ありがたいことに違いありませんね。
大般若経の転読は、信貴山ホームページからでも確認できます。
玉蔵院さん、千手院さん、成福院さん、各お寺の祈祷が動画で見ることができます。
こちらは、お世話になった玉蔵院さんの大般若経です。
【信貴山 朝護孫子寺】 玉蔵院 大般若祈祷
信貴山の山頂の空鉢堂は、多宝塔の裏手にある鳥居やのぼりの連なる急坂を20分ほど上ったところにあります。
「信貴山縁起絵巻」に描かれた、信貴山中興の祖、命蓮上人の飛倉のエピソードに由来する一願成就を祈願するお堂です。
飛倉のエピソードとは、信貴山にいたまま、命蓮上人が「飛鉢(ひはつ)の法」で鉢を飛ばして、食べ物を乞うていた時、山崎長者が鉢を無視して倉に閉じ込めてしまったことで、鉢は倉ごととび上がり、飛び去る倉を長者の一行が追いかけたり、わめいたりする生き生きとした姿を表現したお話。
この「信貴山縁起絵巻」は国宝にも認定されているんですよ。
平家の南都焼き討ち以前の東大寺大仏殿の姿を伝えるお話もあったりで、貴重な資料でもあるんです。
命蓮上人が鉢につけて飛ばした神霊ですが、巳の姿(竜神、難陀竜王)で出現されるとして、空鉢堂では、この空鉢護法の神を祀っています。
拝殿の前の額に書かれた「龍王」には、「みーさん」のフリガナがふられています。「みーさん」は関西では、蛇のこと。
拝殿前に並ぶ、どくろを巻いた石造の蛇も龍神の姿を蛇に見立てたものだそう。
石造の蛇をなでると一つだけ願いを叶えてくれるという言い伝えもあるそうですよ。
空鉢護法 みーさん
空鉢堂 石造の蛇
空鉢堂にお参りする際には、虚空蔵堂の下にある水汲み場から小さいポットに水を入れ、お参りします。
山頂からの景色は、見事。
二上さん、葛城山、金剛山、吉野山の山々の連なりを遠望することができますが、実は、もう一つ、見てきてほしいものがあるのです。
それは、空鉢堂には、本当の白いお蛇さま(みーさま)がいらっしゃるのです。
空鉢堂の係りの方にお願いすると、お蛇様を見せてくれるとか。
まさに、一願成就の神様、難陀竜王さまのご利益がありそうですね。
空鉢堂 お詣り用ポット
空鉢堂頂上への上り坂
空鉢堂 頂上景色
信貴山までお越しの際は、是非空鉢堂まで!
信貴山は、1400年以上、山ひとつが毘沙門天さまへの信仰の場として守られ続けていますが、その山内には、毘沙門天信仰を中心として、様々な神様、仏様が祀られています。
仏教思想家のひろ さちやさんは、信貴山を「庶民信仰のテーマ・パーク」と言い切ったほど。
どんなところがテーマパークかと申しますと、境内のいたるところが見どころスポットになっているだけでなく、宿坊に宿泊して僧尼僧体験ができるまさに体験型のテーマパークなのです!
そのいくつかをご紹介します。
世界最大の張子の福寅(福虎)
聖徳太子さまが祈願したことで、毘沙門天さまが現れた時刻が、寅の歳、寅の日、寅の刻だったことにちなんで、信貴山では、多くの場所で寅をお祀りしています。
信貴山内にはいってすぐ、右手に見えるのが、世界最大の張子の福寅です。
張子の福虎の先には、舞台造りの朝護孫子寺を眺めることができます。
この張り子の寅、実はタイムカプセルになっていて、12年後の寅年に自分に宛てた手紙を取り出せるようになっているそうです。
昼間見ると首がぐるーんと電源で動くのもびっくりですよ。
その他、山を登っていくと、虎のモニュメントもたくさん。お土産のおまんじゅうも寅のお顔。曽我乃家本店の寅まんじゅう。信貴山には何種類の寅がいるか、探してみるのも面白いかもしれませんね。
千両箱持ちの子寅
寅の石造
曽我乃家本店の寅饅頭
日本一大地蔵尊
総丈14.54メートルのとても大きなお地蔵様。
朝護孫子寺の舞台上からでもその大きさからすぐ見つけることができるほどです。
右手はあらゆる災難をお救いくださる印を結び、左手は、お願い事を成就してくださる如意宝珠を持たれていらっしゃいます。
朝護孫子寺の本堂正面の扁額と本堂からの景色
扁額には、百足(ムカデ)の装飾があしらわれています。
また、本堂の欄間の装飾も百足の模様が。
苦手な人はいるかもしれませんが、ムカデは毘沙門天さまのお使いとされているため、本堂に飾られているのです。
一説には、毘沙門天さんは財宝の神としての性格をお持ちのため、「ムカデは足が多い」から「足=おあし=お金」に紐づけて、「お金が多い、お金が集まる」と信仰されるようになったのではないか、と言われています。
扁額の先に目をやれば、そこは本堂の舞台からの絶景。
その景色は、春は桜色、夏は新緑、秋は夕日に染まる紅葉絨毯、冬は墨絵のように白と黒一色に染まるといいます。
どの季節に訪れても違った眺望を楽しめるのは嬉しいですね。
合わせて本堂地下の戒壇巡りも是非、入壇してみてくださいね。
ムカデの扁額
ムカデの欄間
舞台からの景色
釼鎧堂(けんがいどう)
釼鎧堂は、剣の護法童子を病気平癒、無病息災の守り本尊として祀るお堂で、仁王門を抜けて数分歩くと右手に見えてくる赤い鳥居の先にあるお堂です。
「信貴山縁起」の延喜加持の巻で、醍醐天皇の病気平癒を加持祈祷する命蓮が、この剣の護法童子(釼鎧童子)を自分に派遣し、見事、天皇は童子を夢に見て快癒したことから信仰が生まれています。
護法童子は、仏法を守る童形の鬼神だそうですよ。
このお堂から朝護孫子寺の本堂を眺めると、ちょうど舞台をおさめることができるので、撮影スポットとして最適だそうです。
釼鎧堂鳥居
釼鎧堂
仁王門と千体地蔵
本堂からずっと下っていくと、木造の山門があります。
歴史を感じさせる山門は江戸中後期、1760年再建の仁王門です。
仁王様、いらっしゃるのわかるかしら?
仁王門の近くには室町時代中期から江戸時代にかけての千体地蔵が祀られています。
このお地蔵さまの量、圧巻ですね。
船体地蔵の向かいにある曽我乃家本店では、守護神の寅の形をした「寅まんじゅう」を買うことができます。
お土産に是非!
仁王門
千体地蔵
一泊二日の信貴山宿坊体験&尼僧体験も!
信貴山には塔頭が3院、成福院、千手院、玉蔵院、それぞれが宿坊を営んでいます。
実は、宿坊に泊まってこそ、この信貴山の本当の奥深さを知ることができる、と心からお奨めします。
まさに、テーマパークという所以が理解できるのです。
夕食後、夕涼みに境内をぶらり出かけてみると、昼間とは全く違った景色がそこに。
たとえば、一大地蔵尊。昼間は穏やかなお顔で見守ってくださっているかと思いきや、夜のライトアップされた姿は鬼気迫るものがあります。
毘沙門天さんののぼりがかかった道もどこか幻想的な風景に変わります。
日本一大地蔵尊 昼
日本一大地蔵尊 夜
毘沙門天王参道昼
毘沙門天王参道夜
そして、何より、朝護孫子寺本堂の舞台から眺める大和平野の夜景。
これは一見の価値ありです。
早朝は、各塔頭のお堂でそれぞれお勤めがされたあと、その後朝護孫子寺の本堂へと移動し、大般若経の祈願が行われます。
お世話になった玉蔵院さんは、夏場は5時半から浴油堂でのお勤めがあります。
浴油堂で行われた浴油秘宝は真言密教のもろもろの秘宝の中でも秘宝中の秘宝といわれる祈祷方法だそうです。
お祀りする毘沙門天さまはどのような願いでも叶えてくださるといいます。
そして、早朝本堂の景色も絶景かな。
澄んだ空気、白く朝日の指す景色。
是非、この感動を味わってもらいたいものです。
玉蔵院 浴油堂
朝護孫子寺 早朝景色
もし、余力があるならば玉蔵院で実施する「僧尼僧体験」を受けてみるとさらに魅力を感じられるはず。
僧、尼僧の格好をして、1泊2日の間に食事作法、読経と祈祷や写経、境内の清掃の作務などをとり行う体験ができるのです。
若いお坊さんがついて、しっかりと指導してくれるのです。
1泊2日が難しい場合、1日日帰りコースもあるそう。
是非、試してみたいもの!
玉蔵院 僧尼僧体験
玉蔵院 写経体験
信貴山朝護孫子寺は、舞台や空鉢堂からの景色を目で見て楽しみ、大般若経を奏でるハーモニーを耳で味わい、そして、僧尼僧になり実際に体験できる、間違いなく庶民信仰のテーマパークと言って過言はない毘沙門天信仰の聖地なのです。