聖護院 節分祭

甘さと厳しさが共存するお寺 聖護院門跡

 

「京都」「ニッキの香り」「山伏」・・・
ここまでのキーワードで聖護院門跡を思い浮かべる人はかなりの京都好きでしょう。

お寺に入ると、ぷうううんと甘く心地よい香りが漂います。
誰もが京都土産にもらったことがある代表的銘菓、「聖護院八ッ橋」本店から漂う甘いニッキの香りです。
ニッキの香り漂う聖護院門跡は、平安の頃より、増誉大僧正により創建されたお寺です。
「門跡」と称されることからわかるように、御所の火災時などには、天皇家が仮御所として過ごされたり、天皇家、摂家からの入門があったそうです。

また、本山修験宗、山伏の総本山とされ、修験道では、毎年、入峯(にゅうぶ)と称する山岳修行を行うそうです。
入峯は命を落とすこともあるという程厳しい修行。危険な岩場を登ることや、無我夢中で山中を歩き続けるような極限の境地を体験し、天地自然の声を聞きながら、神仏への感謝を強めていくといいます。

甘いニッキの香りが漂いながらも、無の境地を得るために想像を絶する厳しい修行を行う山伏のお寺、それが岡崎にある本山修験宗、総本山の聖護院門跡なのです。

ちなみに、修験道の総本山は大きく3つあり、醍醐寺を総本山とする真言宗系の当山派、金峰山寺を総本山とする金峰山修験本宗、そして、この聖護院門跡を総本山とする天台系の本山修験宗です。
その中でも聖護院門跡は熊野信仰に対する修験者を統括することから生まれたお寺だそうです。

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鬼も豆をまく聖護院の節分祭

 

そんな聖護院門跡は、普段は拝観は予約が必要。
いつでも拝観することはできませんが、節分祭の日だけは、門があけられ、拝観料もなく、訪れることができます。

節分祭では、山伏の方々からの甘酒の接待が受けられるだけでなく、鬼も登場する豆まきが行われます。

お経が読まれた後に、青(緑)鬼、赤鬼、黄鬼の3鬼があらわれます。
それとともに、年男、年女の方々によっての豆まきで、鬼退治が始まります。
最後はご住職の力を通じて仏の力に屈するというわかりやすいストーリー。

聖護院 節分祭 鬼

 

他のお寺、神社の鬼退治では、ここで鬼が逃げて、退散、その後、残った年男、年女の方々によって再度豆まきが再会されるのが一般的ですが、この先がまさに聖護院流。
鬼が仏心を取り戻したところで、鬼も一緒になって豆まきをしだすのです。

鬼も一緒に豆まきを楽しんで、サービス心旺盛な鬼さんたちは、他の豆まきの方が退場してもずっといてくれます。
最後は時間が押しているから、と、お寺のお坊さんに腕組みされて退場しました。

とても心優しい鬼なんですね。

 

 

4体の憤怒の不動明王さまが微笑む時

 

もう一つ、節分祭で必ず見ていただきたいものがあります。
それは、4体の不動明王さまです。

3体は宸殿に、1体は不動堂にいらっしゃいます。

お不動さまは大日如来の化身。
火焔の後背、右手に宝剣、左手に羂索、巻き毛で左肩に弁髪(お下げ)をたらす。
目は左を閉じ、右を開く天地眼、口は、下歯で上唇を喫み、下の左唇を返じて出るようないわゆる利牙上下出相。
まさにその醜悪な憤怒の表情は、人の煩悩へ立ち向かう怒りをあらわしたものなのです。

それぞれのお不動さまは、微妙にお顔や大きさに違いがありますが、この聖護院の不動明王さまは典型的な十九観様式と呼ばれるお姿で、主に平安時代に藤原氏を中心として栄えたお姿だそうです。

ちなみに、十九観式とは別に、東寺の講堂の五大明王の中にいらっしゃる両目を見開き、上歯で下唇を噛む面相の不動明王様を大師様といいます。弘法大師空海が請来した初期のお不動様のお姿といわれています。

この聖護院のお不動さま、それぞれの前で拝んだ後に、お不動さまの顔をそっと覗いて見てみてください。
怒りの表情の中にふっと微笑むお不動さまが、その中に1体だけいらっしゃるといいます。
その仏さま、窮地に陥った時に、真っ先に救いにあらわれる、その人だけの正義のヒーロー。
そんなお不動様だそう。
「だからそのお不動様のお顔、忘れちゃいけないよ」
聖護院の山伏のおじさんが教えてくださいました。

怒りのお顔の中に、どのお不動さまが微笑んでくれましたか?

 

 聖護院の宸殿聖護院 宸殿

 

黒の天井とお不動さま

 

宸殿には、役行者(神変大菩薩)さま、蔵王権現さまの仏像だけでなく、狩野益信、永納をはじめとした狩野派の絵師によってかかれた、花鳥図、老松図、波涛図、鶴の図など金地極彩色の障壁画が描かれています。

宸殿の隣にある不動堂にも不動様がいらっしゃいますが、そのお不動様の前には護摩壇がありす。
そこで、お不動様がいらっしゃる不動堂の中に護摩壇がありましたら、是非天井を見ていただきたいのです。
通常、ご本尊様のいらっしゃる本堂の天井は花鳥風月を飾り、きらびやかな色合いの絵で彩られていることが多く、お寺を拝する楽しみの一つでもあります。

それが、お不動様を前にすると、天井は真っ黒、漆黒の中に美しさを感じてほしいのです。

お不動さまへの信仰が篤ければ篤いほど、護摩壇で行われる護摩炊き、加持祈祷。
それが何百年と続く中で天井の本来の色はなくなりススで天井は真っ黒となる。

漆黒の中の美、その美しさへの敬愛を聖護院の不動堂で、どなたかが語ってくださったことが今でも印象に残り、その他のお寺へ訪れた際も、不動堂の護摩壇を前にすると必ず上を見上げてしまうようになりました。

聖護院門跡のお不動様に隠された信仰の篤さ、それは天井の黒さを見て感じてみてください。

 

節分祭の時の宸殿と不動堂

聖護院 宸殿 不動堂