奈良、東大寺大仏殿の裏参道、そう呼ばれる石畳と土塀の小道は「東大寺で一番美しい」と地元の方に教えていただいた道。
歩いてみると、白い階段の先に続くお堂と青い空のコントラストの美しさに惹かれ、それ以来、奈良、東大寺に訪れる際は、必ずといっていい程、訪れている場所です。
大仏殿前の参道は多くの人で賑わっているにもかかわらず、この裏参道まで足を運ぶ人は驚く程少ない。
それだからこそ、この涼しげな風景を楽しむことができるのかもしれませんが。
小道は斜面にたてられた舞台造りの建物、二月堂に続きます。
この舞台からの眺める大仏殿や奈良の街の景色も、やはり、言葉にならないくらいすばらしく、軒に吊るす大提灯の風情や、暑い日に吹き抜ける爽やかな風とともに、ここまで登ってきたご褒美を頂いた気分になります。
二月堂からの景色
二月堂の舞台
二月堂の大提灯
この二月堂、旧暦の二月、現在は三月に修二会、お水取りの行事がとり行われることで有名な場所です。
そもそも、お水取りは三月一日から十四日にかけて行われる修二会の一部で、必ずしも二月堂で行われるものに限った行事ではないといいます。
お水取りは奈良の秋篠寺などでも行われる春を呼ぶための神事なのです。
二月堂下には閼伽井屋がりますが、閼伽井屋にある、若狭井と呼ばれる井戸から聖なる水を汲んで、二月堂のご本尊に捧げられます。
この若狭井には不思議な話があります。若狭の遠敷(おにゅう)明神が修二会に遅れたことを詫び、若狭から水を送ることを約束したといいます。
それに伴い、今でも小浜の神宮寺では三月二日にはお水送りの行事が行われ、その水がこの若狭井でくみ上げられるといいます。
実際には、若狭と奈良には水脈は通じてはいないのだろうけれど、水脈が通じるという不思議な信仰が千二百年続くこのお水取りという行事にあらわされているのがおもしろいですね。
参考
二月堂の若狭井へ香水送る 小浜で「お水送り」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140303-00010001-fukui-l18
2011-03-02 若狭神宮寺・鵜の瀬のお水送り
この霊水は「香水(こうずい)」とされて、実際に匂香のある霊水なのかどうか、私の知る由もないことではありますが、神秘的なものと香というものは昔から切っても切れないもののようです。
この香水をくみ上げ、二月堂のご本尊様に供える行事がお水取りの行事だと先に書きましたが、実は、二月堂のご本尊さまは二体いらっしゃる。
「小観音さま」と「大観音さま」。どちらも十一面観音さま。そして絶対秘仏。どうしても見ることはできない。
修二会の最初の七日間は大観音さまに、残りの七日間は小観音さまをご本尊にしてとりおこなわれます。十四日目に行われるお水取りのご本尊さまは、小観音さまということになるのです。
東大寺二月堂では、「南無観」という御朱印をいただけます。この「南無観」の「南無」は一心に信じること。そして、「観」は観音菩薩さまのこと。つまりは、観音さまのお姿を一心に念じることをさしているのです。お水取りの行法中は、参篭する練行衆の方々は、この宝号を一心に唱えて、礼拝懺悔を繰り返すそうです。
この二月堂のある東大寺は南都六宗の一つ、華厳宗の大本山。741年、聖武天皇の詔により、国分寺制度が定められ、東大寺が誕生しました。
華厳宗はの教えは、すべて華厳経をもとにした教えで、「一微塵の中に、全世界が反映し、一瞬のうちに永遠の時間が含まれている」「一の中にほかの一切を包含と同時に、その一は他の一切の中に入る」という「無尽縁起」、そして、あらゆるものは縁によっておこり、宇宙の万物は無限に関係しあって互いにさまたげることがないという「事々無礙(じじむげ)」という教えを根本思想としています。
この宇宙の真理を照らす華厳経の教えを、全ての衆生に悟りに導く仏さまが、東大寺大仏殿にいらっしゃる毘盧遮那仏なのですが、二月堂の観音さまも、もちろん、この華厳経の教えへと導く観音さま。
華厳の小道やお水取りの不思議、大小二つの観音さまに出会えたことも、無尽縁起、そして、事々無礙ということなのですね。